クライミングはダイナミックロープ
ロープには“ダイナミックロープ”と“スタティックロープ”があり、クライミングのビレイに使うのはダイナミックロープ。
ダイナミックロープと見た目がほとんど変わらないスタティックロープというのがありますが、スタティックロープは全然伸びません。
荷揚げ、フィックスロープ、チロリアンブリッジなど伸びては困るシステムで利用。
スタティックロープをビレイに使ってしまうと相当ヤバイ・・・。墜落の衝撃は凄まじくでアンカーは次々抜け落ち、アンカーが持ちこたえても人間が壊れてしまうほど・・・と参考書にあります。
一方ダイナミックロープは、編み上げの外皮の中に縮れた芯が何本も入っており、荷重がかかれば伸び、静かにほっておくとまた元の長さに戻ります。この伸びが墜落の衝撃からクライマーを守ります。
ダイナミックロープの平均的な動的伸び率は35%程度。理論値として、20m繰り出せば最大値はなんと7.0mも伸びることになるが、実際には、クイックドローやハーネス、体による吸収があるためここまで伸びることはまずありません。
ロープが劣化すると伸びたあと戻りが鈍くなり、衝撃を吸収しにくくなる。最悪は破断もありえ著しく危険。弾性がなく伸びたな・・・と感じるロープはサッサと買い替えましょう。
平均的な買い替え目安は3年といわれます。
衝撃の計算機
伸びなければスゴイ衝撃・・・ということを、数字で見れるよう衝撃荷重の計算機を作ってみました。
計算機が見えないときは、リロードで現れますm(_ _)m
質量(体重 kg)、落下距離(m)、制動距離(伸び率によって伸びた距離 m)の3か所を適当に入れて計算ボタンを押してみてください。
デフォルトでは、体重60kgの人が3.5m落下、ロープの伸び1.2mとすれば、衝撃荷重は約3.43KN(350Kgf)。
グランドフォールと仮定し、骨の弾性を制動距離として多めに0.1(10cm)・・・なんと約41KN(4.2t)にもなります(@_@)
ダイナミックロープのタイプ
次に絶対知っとかないとならないロープの規格に、シングルロープ、ハーフロープ(ダブルロープ)、ツインロープの3種類があります。その3種類はわかりやすいマークで示され、マークと使い方は覚えときましょう。
ここで重要なこと。
『ツインロープはシングルロープにもハーフロープにも転用してはいけない。しかし、シングルロープはハーフロープやツインロープに転用できる。』という人もいれば、『シングルロープにハーフのマークがなければハーフロープとして使ってはならない。』という人も・・・。
正しいのは後者。
シングル・ハーフ・ツイン3種に対応するロープは、3種類のUIAAフォールテストをパスし、3種類のマークが付与されます。そして、3種類それぞれのテストデータを記載しなければなりません。
例として、ペツルの ARIAL 9.5mm には『single rope』としか記載がありませんが、 VOLTA 9.2mm には、『single, half, and twin rope』と記載され3種UIAAフォールテストのデータが開示されています。
強度は問題ないのかもしれませんが、規格は守りましょう。
ダイナミックロープ試験と表記
ロープは、国際規格を満たすテストマシンでテストされ、データが表示されていますから、これを見ればロープの特性を知ることができます。
重量 - Weight
1mあたりの重量。同じ直径でも重量が違うのもあるので、軽量化を考えるならば直径よりも重量を重視すべき。
外皮率 - Percentage of sheath
読んで字のごとく、ロープに占める外皮の質量の割合を表示。
外皮は芯を守る役割を持つため、外皮率の高さは耐摩耗性に関係。外皮率が高いと、いわゆるロープが丈夫になります。
耐墜落回数 - UIAA falls
UIAAフォールテストともいい、落下係数1.77にてロープが重りの墜落に耐える回数。この数値が大きいほど落下に対する耐久性が高い。それぞれ使用する重りは以下の通り。
シングルロープは80kg
ハーフロープは55kg(シングルの約3/4)
ツインロープは2本束ね80kg(シングルの約1/2)
落下係数(落下率)は、アルテリアの“技術情報 – 落下率と衝撃荷重(理論と実践)”に詳しく掲載。
衝撃荷重 - Impact force
UIAAフォールテストの1回目に生じた衝撃荷重、また、数本試験された結果の最大値が表示されます。
衝撃荷重は、墜落の際にプロテクションなどにかかる衝撃。ロープがよく伸びて衝撃を吸収すると、衝撃荷重が低く抑えられます。つまり、プロテクションが抜けにくくなります。プロテクションに不安のある、ナチュラルプロテクション、アルパインクライミング、アイスクライミングでは重視すべきデータ。
逆にアンカーがしっかりしているジムや岩場など、トップロープを頻繁に行う場合、ロープが伸びては使いづらいので伸び率が低いことを優先。
伸び率 - Elongation
静荷重と動荷重の2つを計測。
静荷重とは、まず5kgの重りをぶら下げ、次に80kgの重りをぶら下げたときの差が伸び率。商品カタログに伸び率が1つしか記載していない場合、静荷重を示す場合が多い。
動荷重とは、UIAAフォールテストの1回目での伸び率。
だいたいシングルロープで、静荷重伸び率は7~10%、動荷重伸び率は30~40%。
テンションをかけたときは伸びが少なく、フォールの場合は伸びて衝撃を吸収してくれるロープがいいに決まってるが、都合のいいロープはなかなかない。
トップロープやユマーリングは、この静荷重の伸びが少ないロープのほうが使いやすく、またロープも長持ちします。
岩角テスト - Edge test
少し古く個人のブログですが興味深い記事を発見。
ロープのエッジテストについて
伸び率が高いと衝撃荷重が低くなる傾向ですが、伸び率が高いのが良いということではありません。衝撃吸収はビレイヤーの熟達で行われるのが王道。しかし足場が狭いマルチなど、衝撃吸収の体制が取れない場合も少なくありません。その時は、ロープのスペックが大きな役割を果します。
伸びないと衝撃は吸収されませんが、伸びすぎるのも困る場合が多いものです。
シングルロープ伸び率は、静荷重7%前後程度が適当と考えます。
オススメのクライミングロープ
何でもそうですが、経験から言わせてもらうと用途範囲の広いものを買おうとすればかえって高くつきます。
当倶楽部が辿り着いた4パターン。
人工ウォール
トップロープやハングドッグなど、ロープのダメージが多くなるクライミングでは丈夫が最優先。ドライコーティングは必ずしもという訳ではありませんが、ドライコーティングがあった方が湿気が多い日などビレイ操作に支障をきたしません。
ロープ径9.8~10.0mm×30~40mです。
伸び率が低く、耐墜落回数が十分ものが理想ですが、ジム用とかスポーツとかカテゴリーを分けているメーカーもあるので、それに従っとけば問題ありません。
次の『外岩スポーツルート』での60m兼用でいいかもしれませんが、持ち運びが面倒ですし、次の人が待ってるのに取り回しも時間がかかります。
ロープへのダメージも考えれば、60mが傷むのはもったいないし、外岩はドライ仕様で人工ウォール用はドライでなく交換頻度を上げるという使い方もできるので、やはり外岩とは分けて考えます。
ペツル マンボウォール 10.1mm
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外岩スポーツルート
スペックはジムと同じ考えで、長さを60mに延長。径は若干細くしても良いですね。
ここでいう岩場とは、ボルト固定のアンカーでルートが作られているスポーツルートを示します。
鹿児島では60mあれば十分です。
薩摩川内の千貫岩の初心者ルートは20m程度で切ってあります。しかし、上下をメインロープでセルフビレイ、そしてセカンドが登ってくる様子を見ようと、トップが長めにビレイ取ると60m必要。あと金峰山の不動岩トップロープも60mです。
マムート ギャラクシーDRY 10.0mm
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マムート エタニティDRY 9.8mm
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バリエーション
ロープ径は8.9~9.0mmくらいの50mシングルロープ。最近は9.0mm以下でシングルロープの規格を満たすものも見かけます。非常に軽いです。
軽いのが信条のアルパイン、60mより50mです。10mで500gほど差が出るし、沢登りなどロープを出す箇所が多ければ、取り回しはできるだけ早く行わなければならない。下から『まだ~!』と言われないよう50m(笑)
バリエーションで60m以上が必要なら、ダブルロープの出番です。
エーデルリッド スイフトProDry 8.9mm
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ダブルロープ
マルチピッチ手順や支点構築をみっちり練習を積んだら、いろいろ行きたいですね。ナチュラルプロテクションなどを前提に、衝撃荷重の少ない細身のロープ。ぜひともフラッグシップモデルを。
8.1~8.6mm×50m。
当倶楽部では50mを推薦しますが、ダブルロープの場合、長さは指導者の考えや地域の特性もあるので指導者に聞いてください。
あと、外皮と芯の双方にドライコーティングしてあると価格は上がりますが、濡れによる強度低下が少なく、ロープ全体の強度も増すので細いロープには必須と考えなければならない。
ドライコーティングは、メーカーごとにオリジナル名が付いてます。マムート・ドライ、エーデルリッド・プロドライ、エーデルワイス・スーパーエヴァードライ、ペツル・デュラテックドライ・・・。名前が長くなればなんかすごそうですがほぼ同じです。
あと、ダブル規格で7mm前半とかありますが、当倶楽部では未経験です。『比叡山クライミング』でロープのことをチラッと書いてます。
ベアール コブラⅡ ゴールデンドライ 8.6mm
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過去は、太い径は丈夫さにおおよそ比例していたので、ロープ径ありきで語られることが多かったのですが、テクノロジーの飛躍的な進歩により、20年前の10.5mmと2018年現在の9.5mmは同じ強度といわれ、細い径のロープでも十分な強度が保てるようになっています。UIAAなどの厳格なテストにパスしたものは、エッジ擦れに気を付ければ、通常使用で切れることはまず考えられません。
細いロープは、重量が抑えられるばかりでなく、クイックドローにクリップしやすく流れも良い。また、しっかり結べビレイヤーが繰り出しやすいという利点があります。
太いのに慣れていると、墜落時止めにくさを感じるかもしれませんが、ビレイグローブを着用し、しっかり所定の位置で構えれば、そんなに止めにくいということもありません。
MAGIC LIZARD ロープ規定
UIAA適合、EN892適合を規定。
UIAAなどに適合していても、ローコストのロープは、有名ブランドでもキンクしやすかったりケバ立ったり使い勝手が悪いのもある。その様なロープは、ハンドリンなどや制動に影響がでるので早いサイクルで交換した方が間違いありません。ハンドリングなど数値化できないので、経験者や実際の使用レビューなどを参考にします。
推薦メーカー
スターリング、エーデルリッド、エーデルワイス、べアール、ペツル、マムート
ロープ径
9.0mmなど細いシングルロープ場合、経験が浅い者は、同様のロープのハンドリングに十分慣れてからが絶対です。
ハーフロープやツインロープは、バディと太さ、長さ、伸び率などが同じで、色だけは変えたほうが良いので事前に要確認。
使用禁止の状態
製造と使用開始の年月がわからない
末端が熱処理していない
ロープセンターにマジックインクなど自分でマーク
外皮が破け中の芯が見えている
固くなりぶら下がっても伸びなくなった
外皮をつまむとフワフワ(ブヨブヨ)の部分がある