カラビナについて
カラビナは、大きく分けてノーマルカラビナとセーフティロックカラビナ(安全環付カラビナ, ロッキングカラビナ, ロックカラビナなどとも)に大別できます。
ロックカラビナは、ひと手間かけないとゲートが開かないロックシステムを実装します。
更にカラビナには、形状などによりいくつか種類があるので、その特徴と用途をザックリとみてみましょう。
フレームの種類
HMS型(洋ナシ型)
HMSは、ドイツ語の『Halbmastwurf Sicherung(ハルプマストヴルフ ジヒェルング)』の略で、意味は『ハーフマストノット確保器』。つまりハーフマストノット(ムンターヒッチ, イタリアンヒッチ)用確保器として考案されたカラビナ。
HMSは名称なのでほんらい『型』は付けない。訳すと文法の通じない意味となりますが、ここでは統一のためあえて『型』を付けます。
ハーフマストノットを用いる場面、例えば、懸垂下降やセカンド確保、ロワーダウンなどいろんな角度から荷重がかかることを想定し、メジャーアクシスの角度が広く設計された。現在ではビレイデバイスやアセンダーなど専用道具を用いるが、HMSは現在でも様々な用途をカバーします。
オーバル型(O型)
オーバルとは、幾何学で卵形や長円を意味する。また、長円形の競技場もオーバルと呼ばれます。
オーバル型からD形、そして変形D型と改良が進んだが、合わせるデバイスによってはオーバル型でないと安定しません。例えば、コング社ダックなどアセンダー、ペツル社マイクロトランクションなど、幅広のデバイスは変形D型だと座りが悪く不安定なので、オーバル型の出番です。
D型
変形D型にとってかわられ、カタログでも見かけないブランドも増えてきた。D型を選ぶ必要性は見つからない。
変形D型(オフセットD型)
ノーマルカラビナや小型ロックカラビナは変形D型が主流。ゲート開口が広くなるほかに、一番強度があるスパイン(バックストレート)に過重がかかる形状により軽量化しても強度を確保できます。
なんといってもゲートを解放したとき、リベットよりノーズが外側に位置するので、ギアラックやアンカーの抜き差しがスムーズ。
ロッキングスリーブの種類
スクリュー
ロッキングシステムをねじで上げ下げし、ロックや解除を行う。
ペツル社のアタッシュなど、ロック解除時はゲートに赤のペイントが表われ、目視でロックが確認できるよう工夫されています。
ロックを忘れるとただのノーマルカラビナなので習慣付けが必要。
ベテランはスクリューを好む傾向にあります。
オートロック(クイックロック)
ひねり, ゲートオープンと、2アクションでゲートが解放される。ツイストロックなどとも言います。
ゲートが閉じているときは必ずロックがかかるので、ゲートを開くときは毎回ロック解除の2アクションが必要になります。ノーマルカラビナのような使用法はできない。
片手でも操作でき、スクリューと双璧な存在。
ただ、オートロックに慣れてしまうとロックの習慣がつかないので、他の人のシステムの時、注意がそれればロックのかけ忘れもあり得ます。
3ACTオートロック
押し上げ, ひねり, ゲートオープンと、アクションを3回に増やすことでロープなどの接触による不意なロック解除の確率を大きく下げる構造。
他には、ボタンを押す, ひねり, ゲートオープンと少し違うのもあります。
3ACTは片手での操作が困難なのでこれを嫌う人は多い。
etc
ブラックダイヤモンド社マグネトロン
磁石でロックという変わった種類。倶楽部での使用実績はありません。砂鉄を拾いそうで・・・。しかし、発売から大きな仕様変更もないので、特に不自由はないのかもしれません。
グリベル社のツインゲート
両方からゲートを2枚合わせることによりロープ抜け防止を図る。ただ難点は、Nonキーロックの形状によりひっかけやすい。面白い発想だが、頻繁に抜き差しするところでは向かないかもしれない。
ノーズの種類
Nonキーロックノーズは凹がある。こいつがスリングやアンカーから抜くとき引っかかりやすい。ギリギリ届いたとき、なかなか抜けないときのストレスは尋常でない。
Nonキーロックノーズは倶楽部規定ではNG。
『初心者はキーロックがおすすめ・・・』とかいう上から目線の意見もありますが、こういうのは無視してイレギュラー確率を下げることへ専念しましょう。流れはキーロックですから。
ゲートの種類
ストレートゲート
ゲートが直線的なタイプ。クイックドローの支点側に使われるほか、汎用性が高い。ノーズに凹がないキーロック型が、ボルトにかけるのも回収も楽。
ベントゲート
ロープクリップがスムーズにできるよう、『くの字』に曲がったゲートタイプ。単品で使われることはあまりなく、クイックドローのロープ側に使われます。
ワイヤーゲート
ワイヤーゲートはロープを面で受け止め、ゲートの開口部も広いためクリップがしやすく、ウィップラッシュ現象が起きづらい。さらには凍結に強く、軽量とメリットだらけのワイヤーゲートですが、ノーズ部分に凹という唯一のデメリットが・・・。
ウィップラッシュ現象とは?
カラビナのスパイン側が強い力で岩などに衝突した場合や、ロープの摩擦によりカラビナが微振動し、ゲートがその振動に同調できず瞬間的に開いてしまう現象。この時にカラビナに荷重が掛かるとカラビナは容易に破断します。
ゲートがワイヤー式であれば、その恐れは比較的少ないとされます。
ノーマルカラビナ
全長95~100mmくらい。90mmを下回るような小型のカラビナは、グローブ装着時に扱いつらいかも。
メリットだらけのワイヤーゲート唯一のデメリットは、ワイヤーを受ける凹がノーズに必要。こいつがNonキーロックと同様に邪魔。そこで改良されたのがフーデッドノーズ(フードワイヤー)というノーズ形状。
2010年くらいから各ブランドが相次いで発表。現在無敵のカラビナ。
WILDCOUNTRY HELIUM / ワイルドカントリー ヘリウム
倶楽部での使用実績はありません。
いち早くフーデットノーズを発表したワイルドカントリー。フード段差が邪魔にならないか気になる・・・。
クローズドゲート24kN
ゲートオープニング27mm
重量33g
DMM ALPHA TRAD / DMM アルファ トラッド
DMMのワイヤーゲートは、以前シールドという製品だったがアルファトラッドにリニューアル。アルファトラッドのほうがいいね。
クローズドゲート24kN
ゲートオープニング25mm
重量35g
BLACKDIAMOND LIVE-WIRE / ブラックダイヤモンド ライブワイヤー
ブラックダイヤモンド最高峰。
スパインに刻まれたリブと、突き出たノーズが抜群のクリップを実現。隙間が空いたフーデッドは、異物が詰まりにくく詰まっても排除しやすい設計らしい。
現在、製造中止で在庫のみ。
クローズドゲート25kN
ゲートオープニング24mm
重量44g
PETZL ANGE L / ペツル アンジュL
クローズドゲート22kN
ゲートオープニング26mm
重量34g
セーフィティロックカラビナ
フォロー装備は、HMS2枚、オーバル1枚、変形D小型4枚。
トップ装備は、フォロー装備プラス、HMS3枚、オーバル2枚。
“クライミングギア” 記載の装備は、一応余裕を見ているつもりですがもちろん状況に応じ追加変更は必要。
HMSロックカラビナ
全長100~110mm程度の大きめのカラビナ
PETZL ATTACHE / ペツル アタッシュ
ペツルのキーロックノーズは、他ブランドと違いノーズが『くの字』に折れ曲がっていない。ストレスない抜き差しを実現しています。
ペツルに慣れてしまうと、他ブランドを使ったときに、若干の引っ掛かりが気になるかもしれない。
クローズドゲート22kN
ゲートオープニング24mm
重量56g
オーバル型ロックカラビナ
全長100~110mmくらい
CLIMBING TECHNOLOGY PILLAR PRO / クライミングテクノロジー ピラーPRO
オーバル型は意外と出番が多い。
クローズドゲート25kN
ゲートオープニング22mm
重量68g
CLIMBING TECHNOLOGY / IWATANI-PRIMUS
変形D小型ロックカラビナ
全長95~100mmくらい
GRIVEL ALPHA K1N / グリベル アルファ K1N
グリベルは、スクリューのピッチがペツルなどより細かい。ロックやロック解除に余計回さないとならないが、ロープ擦れによる意図しないゲート開放が発生しにくい。
クローズドゲート27kN
ゲートオープニング — mm
重量55g
ボディビレイカラビナ
ボディビレイカラビナとは、ハーネスのビレイループにセットしたカラビナが反転したり横向きにならないように工夫されたボディビレイ専用カラビナ。懸垂下降や荷揚げにも使用可能。
ビレイ中、クライマーから目を離すのは厳禁。カラビナが正しく位置している(メジャーアクシス)かは、慣れた連中ならいちいち見なくても手で状態を確認しますが、それでもヒューマンエラーはゼロにはできません。当倶楽部でのボディビレイは『ボディビレイカラビナ使用』と『逆向きの力でビレイループから外れない構造』を規定。
各ブランドいろいろなタイプがありますが、規定品を集めてみました。
GRIVEL CLEPSYDRA K10G / グリベル クレプシドラ K10G
グリベルは、ロッキングシステムがツインゲートという独自設計でゲート誤作動を防止。
グローブでもスムーズな開閉で、特に慣れが必要とも感じません。
倶楽部のカラビナノーズ規定は、NonキーロックNGですがK10Gに限り例外。
クローズドゲート22kN
ゲートオープニング — mm
重量89g
DMM CEROS / DMM セロス
DMMは、ペツル社グルグリやプーリーが反転するのを防ぐ角がある。
写真はスクリューだが、ほかにツイストとトリプル(3ACTオートロック)もあります。
クローズドゲート25kN
ゲートオープニング20mm
重量87g
OCUN CONDOR SCREW / オーツン コンドル スクリュー
オーツンは、スクリューとツイストとトリプル(3ACTオートロック)あり。
写真はスクリュー。
クローズドゲート25kN
ゲートオープニング22mm
重量85g
METOLIUS GATEKEEPER / メトリウス ゲートキーパー
人気ブランドのメトリウス。
ラインナップはスクリュー1本。
全体的に少し薄くエッジが効くので『ロープの流れが悪い』という人もいる。
クローズドゲート22kN
ゲートオープニング — mm
重量70g
BLACKDIAMOND GRIDLOCK MAGNETRON / ブラックダイヤモンド グリッドロック マグネトロン
マグネトロンはオートロックタイプで、ゲートが閉まると自動ロック。
ロープガイドがゲートと一体化してるので、ビレイループを所定の位置に納めるとき2度開閉操作をしなくてはならない。これを嫌う人もいる。スクリューだとまだましでしょうか。
写真はマグネトロン、スクリューもあり。
クローズドゲート22kN
ゲートオープニング21mm
重量78g
MAGIC LIZARD カラビナ規定
カラビナ全般
UIAA規格品、メジャーアクシス21kN以上、マイナーアクシスとオープンゲート時の破断強度刻印があるカラビナ。
全てのカラビナのノーズタイプは、キーロックもしくはフーデッドの2種を規定。NonキーロックはNG(例外、グリベルK10G)。
ボディビレイカラビナ
ボディビレイには、逆向きの力でビレイループから外れない構造のボディビレイカラビナを用います。これは、ロープガイドにビレイループが正常にセットされていないというミスを犯しても、自然の力で正常に収まる特徴を備えます。
BDグリッドロックについて
今のところは規定内ですが、ロープガイドが破断した写真を見せてもらったことがあります。ビレイループがガイド内に収まらない状態での使用が原因と考えられるが、なによりも破断面が鋭くビレイループへの接触を想像するとゾッとする。
この現象が再現されたとの情報が入れば使用禁止です。
カラビナの強度はメジャーアクシス(確実にスパインに荷重がかかる)が前提であり、三方向荷重などゲートにも過重がかかるような使い方では破断強度よりはるかに低い荷重で破断する。よって、HMS型24kNと変形D型28kNのでも、使用法によっては変形D型のほうが高強度で安全だという話にはならない。
例えば変形D型カラビナは多用されるが、ペツル社タイブロックではオーバル型のフレーム断面が楕円とペツル社より規定されており、また、コング社ダックやペツル社マイクロトランクションなどにも向かない。
変形D型, オーバル型, HMS型を使い分けることにより、初めて状況ごとに対応していることになる。ブラックダイヤモンドのテクニカルインフォメーションで重要なことを案内。古い情報ですが、現在でも常識として知っておく必要のあるもの。
・カラビナへのロープの通し方
・カラビナの強度